■働いても貧困 ― 日本のひとり親家庭を追い詰める構造とは
日本のひとり親家庭は、ОECD諸国の中でも世界で二番目に高い貧困率に直面しています。 その背景の一つとして、税や社会保障による再分配が十分に機能していないという構造的な問題があります。欧州の多くの国では、児童手当や住宅支援などの手厚い再分配政策によって、ひとり親家庭の生活を守り、子どもたちの未来を支えています。しかし日本では「働いて自立すること」が強く求められる一方で、現金給付や社会的支援が乏しく、努力しても報われにくい現実があります。その結果、ひとり親家庭は「働いても貧困から抜け出せない」という深刻な構造的課題を抱えているのです。

※OECD,Family database"Child poverty"(令和3(2021)年12月)のデータをもとに作成
■東村山市にもいる、ひとり親家庭が抱える見えない負担
総務省の発表によると日本の総世帯数は6,128.8万世帯(2025年現在)、そのうち母子世帯数は119.5万世帯、父子家庭は14.9万世帯、合わせて134.4万世帯に上り(「令和3年度全国ひとり親世帯調査」厚生労働省)、日本のひとり親家庭の割合は全体の約2.1%になります。割合としては低く感じるかもしれませんが、これを東村山市に当てはめてみると約1,600世帯がひとり親家庭と推計されます。
両親のいる家庭では、父親と母親が助け合いながら子育てや仕事をしていますが、ひとり親家庭の場合はそれを一人で担わなければなりません。またその他の要因もからみ合うことで収入が下がってしまう傾向にあり、ひとり親世帯の貧困率は44.5%(「2022年(令和4年)国民生活基礎調査」)という結果が浮き彫りになっています。

■「ひとりで働き、ひとりで育てる」シングルマザーの現実
そしてひとり親家庭の中でも、その影響を顕著に受けるのは母子世帯です。「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯の就業率は86.3%に対して父子家庭は88.1%とその差は約2%にとどまりますが、母親自身の平均年間就労収入は236万円で、父子家庭の父親の496万円と比べると、2倍以上の開きがあります。この要因として考えられることとしては、本来なら受け取れているはずの養育費を受け取れていない母親の割合が高いことや、正規雇用率が低いという点が挙げられます。非正規雇用では、たとえどんな事情があったとしても仕事を休むとその分収入が減ってしまったり、昇給やボーナスの機会も少ない場合が多いため、働いているにもかかわらず十分な収入が得られないという状況に陥ってしまうのです。

(令和3年度全国ひとり親世帯等調査 子ども家庭庁 のデータをもとに作成)
■貧困が子どもに与える影響
この経済的困難は、子供たちの成長や将来にも影響を落としており、特に子どもの教育機会に直結しています。教育費を十分に捻出できないため、塾や習い事に通えない子どもが多く存在し、その結果、学力格差が広がり、大学進学率も低下しています。国の調査によると、母子家庭の子どもの大学進学率は全体平均よりも約13ポイント低い水準にとどまっています。(「全国ひとり親世帯等調査」「学校基本調査」より)
また、母親が非正規雇用で長時間働くケースが多いため、子どもと過ごす時間が不足し、孤独感や心理的ストレスを抱える傾向があります。自己肯定感が低下し、「自分は恵まれていない」と感じる子どもも少なくありません。さらに、食費を削ることで栄養が偏り、医療費を節約するために受診を控えるなど、健康面にも悪影響が及びます。つまり、日本のシングルマザー家庭の子どもは、教育・心理・健康の三方面で不利な状況に置かれているのです。
■突然の夫との別れ、シングルマザーが抱える苦悩 ~Uさんのケース~
「なんで私ばっかりこんなことに。嫌になる。」と、力なく話し始めるUさん。高校2年生の長男と、中学3年生、小学5年生になる2人の娘の3人の子どもを働きながら育てているシングルマザーです。Uさんは数年前、夫を不慮の事故で亡くして以降、子どもたちを育てるためがむしゃらに働く毎日でした。
娘は二人とも音楽が大好きで、長女は部活動で合唱部に、次女は親戚から譲り受けたピアノに打ち込んでいました。忙しいながらも、4人で前向きに生活していたUさん家族ですが、1年を過ぎたころに変化が表れ始めます。

小学生の次女が、学校を遅刻したり欠席することが次第に増えてきたのです。気が付けば、家での表情も暗く、元気がありません。次女に話を聞くと、仲の良いクラスメイトが何人かいて、学校から帰るとみんなでお菓子を持ち寄ってお友達の家で遊んだり、時にはそれぞれ親からお小遣いをもらってお揃いの文房具を買いに行ったりしていたようです。しかし、次女はUさんに小遣いをねだることができず、次第にお友達と遊ぶ機会が減ってしまったということでした。学校の休み時間には、自然と放課後にみんなで遊んだ時の話が多くなるため、だんだんと話についていけなくなり仲間外れにされているような気分になり、学校に行くのが憂鬱になってしまったのです。
家でピアノを弾くとその気持ちが紛れるため、次女が学校を休む日はどんどん増えていってしまいました。休みが増えると昼食の準備や勉強の遅れを取り戻すことが難しくなり、Uさんは休みの融通が利く仕事に転職せざるを得ませんでした。長男の学費など何かとまとまったお金を用意する必要がある時期、最初のうちは退職金と貯金を取り崩して何とかやりくりしていましたが、以前の仕事に比べると手取りが減り、ボーナスもない上に、急な休みでさらに減給になってしまうため、あっという間に貯金は底を尽きてしまいました。次女が唯一楽しみにしていたピアノの習い事だけは何とか続けさせてあげたいと思っていましたが、それももう無理です。育ち盛りの子どもたちばかりなのに食費も切り詰めなければならず、子どもが「お母さん、お腹がすいた。」と訴えることが日に日に増えてきてしまいました。
そんな中、長女が浮かない顔で通知表とお知らせを持って帰ってきました。通知表を見てみると、前回よりも成績が大幅に下がってしまい、このままではずっと行きたいと思っていた学校には届きそうになく、志望校を変更せざるを得ません。また、もし合格したとしても、入学金や制服代などを払える見込みが全くありません。その上、お知らせには修学旅行の案内もありました。旅行代金は約7万円ほどかかり、自由行動中のお小遣いも必要というのです。費用を捻出できる余裕ももう、どこにもありません。

そういった状況の中で、Uさんは福祉職に相談するといくつかの給付金や貸付の制度を紹介されました。最初は「そんな制度、本当にあるの?」と半信半疑でしたが、必要な手続きを踏むことで長女は楽しみにしていた修学旅行に行くことができ、また塾にも通えるようになりました。苦手科目を塾で集中して教えてもらうことでテスト成績が戻りつつあり、目標の学校に向かって勉強に励む毎日です。入学金や制服代も何とか目途が立ち、Uさんもほっと胸をなでおろし、長女と一緒に学校見学に向かうことができたのでした。
■東村山の子どもたちを支える未来に向けて
ひとり親家庭への奨学金給付金や教育ローンの制度はありますが、子どもの習い事に対しての支援や学校を休みがちな子どもに対する学習支援の仕組みなどに関して、現状の東村山ではまだ十分に整っているとはいえません。アンケート調査でも、塾に行かせる費用がない、夏休みの宿題を見てほしい、勉強の遅れをサポートしてほしいといった「学習支援」を希望する声が多く届いています。
その他にも、ひとり親家庭の子どもは母親と過ごす時間が減少することで孤独感や精神的ストレスを感じたり、食費を削ることで栄養が偏ってしまうというリスクも高まりますが、そういった心理面や健康面でのサポート体制についても東村山ではまだまだ不十分な状況です。東村山の子どもたちが安心して学び、明るい未来を描ける環境を整えるため、地域全体で協力して取り組めることがあるのではないでしょうか。
―写真はイメージです。個人情報保護のために複数の家庭の声を元にストーリーを再構成しています―
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